農法をご紹介する記事でございます。
今回とりあげるのは『炭素循環農法』です。
炭素循環農法の提唱者はブラジル在住の林幸美(はやしゆきみ)氏。
自身で実践されたことをまとめ、20年ほど前からそのノウハウを余すことなくWEB(以下本家サイト)に公開しています。
6080プロジェクトではちょくちょく、家庭菜園と農業は別物だから分けて考えようと主張しておりますが、
だけれどもこの炭素循環農法は、個人的に、唯一、家庭菜園でも十分実現可能であり、かつ農業としても成立する(つまり流通にのせられる)可能性のある農法だと思っていて、おおいに期待を寄せております。
そんな素晴らしい農法ですが、その本家サイトの情報量たるやものすごく、またその理論も今までの常識を大きくくつがえす衝撃的な内容が数多くあるため、多くの人が途中で力尽きてしまうであろうと予想されます。
でなければ、とっくに拡まってないとおかしいレベルの完成度
ただそこで力尽きてしまってこの農法から離れてしまうのはあまりにも惜しいので、今回は本家サイトをより読みやすくするために、ちょっとここ難しいけど大事な部分だなと感じるところを中心に、ザックリと噛み砕いて自分なりに紹介してみようと思います。
この農法も理論から逃げずに真正面からぶつかっています。
だからものすごい文量になっている
が、この記事では細かな理論にはあまり触れていません。
詳細は本家サイトで。サイトマップに一覧が載ってるよ。
一応、本家サイトの関連部分のタイトルをこの記事のところどころに書いておくので参考にしてね
まずはおさえておいてほしい全体のイメージを掴んでいただいて、本家サイトの理解に繋げていただければ幸いです。
炭素循環農法とは
自然を利用する
本家サイトにはこのような一文があります。
手抜き農法 -
手間をかけない。
経費をかけない。
特殊なものは使わない。
食料生産を行うにはこれが大前提。こうでないと、ずっとは続けられません。
そしてこの条件は、自然に逆らわないことでしか実現できません。
自然の定義
そもそも自然とはなんでしょうか?
緑があって〜。水が流れて〜。生き物がいて〜
炭素循環農法でいう自然はちょっと違うんだ
炭素循環農法では、物事には流れがあり、その流れに逆らっていない状態を『自然』としています。
たとえば四季。冬が終われば春が来て、その次に夏が来るのは当たり前ですよね。
これは何もしなくてもどうしたってそうなります。
でももし、春の次に無理矢理冬にしようとしたら、実現可能だとしても莫大な費用とエネルギーを必要とするでしょう。
このような動きを『反自然』と呼びます。
月の形も上弦から満月、下弦、新月とこの流れは変わることがありません。
植物も、発芽し、葉をつけ、花が咲き、種や実をつけるという流れが変わることはありません。
このように多くの物事は、辿る順番というものが決まっています。
この決まった方向に流れていくことが『自然』であるのです。
該当:基礎-自然農法の理念と定義-定義と基準
食物連鎖
この流れの一つが『食物連鎖』です。
土中の微生物→植物→草食動物→肉食動物と続き、最後動物が死ねば微生物の分解で土に還っていくといったお馴染みのあれですね。
その最初と最後をつなぐものが、『糸状菌』です。
他の微生物では分解できないもの(高炭素)までも完全に分解し、微生物が仕事をできる状態にして次に繋げています。
厳密な食物連鎖では、微生物の前に糸状菌が居るのです。
従来の農業では、糸状菌を無視して微生物だけが分解しやすいもの、もしくは微生物すら無視して直接植物の栄養素となるものを肥料として土に撒きます。
結果、微生物では分解できないわずかに残ったもの(食べ残し)をこれまたわずかな糸状菌が細々と食べるという、食物連鎖の欠落、または逆流を作ってしまっていて、ここから農業における様々な副作用が始まっちゃっているのが現状なのです。
まず本来の糸状菌→次に微生物ではなく、微生物主体→糸状菌居ても居なくてもどっちでも、となってる
流れに逆らってるね。反自然だね
糸状菌を育てる
なので炭素循環農法の主張は実にシンプル。
この食物連鎖の一番最初の糸状菌をしっかり豊富に育てれば、植物である野菜は勝手に育つ、です。
一応、糸状菌から始まる植物への養分供給のメカニズムについては、私のブログでもこちらの記事で触れています。
ゆえに人間が野菜を育てるために必要な肥料は要りません。
そして人間がよく分かっていないくせに不完全な肥料を過剰に与えるもんだから発生してしまうあらゆる歪みも無くなるので、農薬等も必要無くなります。
これが炭素循環農法の根幹となる部分です。
これを本家サイトではあらゆる角度から理論的に説明しているのですが、ちょっとでも難しくなったらけっきょく土台はこれということを思い出すと良いでしょう。
では次に糸状菌を育てるってどういうことかみてみよう!
糸状菌の育て方
糸状菌や微生物が食べるエネルギー源となるものは炭素です。
特に高炭素となる成分は、糸状菌しか扱えません!
炭素をたくさん含んでいる代表格は木や竹など
狙いはこの糸状菌で土の中を埋め尽くすこと。そうすれば自然と微生物がやってきて丁度良いバランスとなり、土の中を最適な環境に作り替えてくれます。
人間が糸状菌と微生物のバランスをコントロールしようとしなくても良いのです。
むしろそんなこと人間にはできません。
糸状菌をしっかり育て増やせば、食物連鎖のスイッチが入り勝手に動き出します。
逆はダメです。微生物を増やしても糸状菌は増えません。
なので、畑となる場所にまず入れるのは、糸状菌だけが扱えるような、炭素比率の高いものとなります。
ここで混乱してはならないのは、この炭素は微生物たちの餌(主にエネルギー源)であり、作物の肥料ではないということです。
農学の教科書の肥料をみれば、炭素の比率があまりに高い物質を混ぜてしまうと障害を起こすので、炭素比率の低いものを肥料にしなければいけないというようなことが書いてあると思います。
『窒素飢餓とは』でググってみよう
で、この話の前提は、土の中に十分な糸状菌がいない状態で成立することです。
もちろん糸状菌がいない土でそんなことしたら教科書どおりの障害が起こります。
糸状菌が育つ環境を作ったうえで炭素資材を入れれば、教科書のようなことは起こりません。
炭素をいれるのは、植物の肥料ではなく糸状菌たちの餌なんだということをしっかりと受け止めましょう!
糸状菌が生きるための環境条件
あとは糸状菌が生きて活動できるように環境を整えてやることも人間の仕事です。
ここで重要なのが「酸素を絶やさない」ことと、「余分な水分を留まらせない」ことです。
どうやればこの条件で炭素資材を届けられるかは、本家サイトのほうをどうぞ。
具体的なことをここで書いても本家サイトとカブるだけだし膨大な文量になってしまうので
この炭素の届け方はいろいろな手法が紹介されていて、少し混乱する部分かもしれません。
そんな時は、根本は上記の酸素を絶やさず水分を逃すことが目的だということを忘れずに、畑によって土質や環境は違うので、よくあるパターンのこういう時はこうしたら上手くいったよ、といった細かい事例を紹介しているだけ、ととらえると多少はスッキリするのではないでしょうか?
その他
以上が炭素循環農法の主軸。あとはこの辺整理しておくと理解が進む気がするよという事柄をいくつかピックアップしていくね
その1・C/N比率
CとNは元素記号で、炭素と窒素のことです。単純に、窒素量を1とした場合炭素がどれくらい含まれているかを表す数字です。
農業の世界ではよく使われる数字で、一般的に肥料として最適なのは20前後とされています。
糸状菌を飼うためには炭素比率の高い餌をあげようと言いましたが、C/N比率で表すと、40以上でもっとも活動するのだそうです。
炭素循環農法の説明においてよくキノコの廃菌床が出てきます。C/N比率が高いうえ最初から糸状菌もタップリということで便利アイテムとされがちですが、家庭菜園においては無理をせずに身近なものを使ったほうが良いでしょう。
特殊なものは使わない
具体的には、雑草や、収穫後の残渣になるかと思います。
もちろん、木や竹などが容易に手に入る環境にいる人はそれらも使えば良いと思います。
とにかく無理をしない。みんなが使ってるからといって遠くから同じものを手に入れようとしない。手抜き農法が大事です。
さてC/N比率40以上が最適と書きました。
じゃあどうやれば40以上になるのかというと、とりあえず『草』においては、ザックリと以下の状態になれば大体最適な状態になるようです。自然はよくできてますね、とのこと。
どんな草も、生の状態よりも枯れた状態の方が炭素率が上がる
その上で、イネ科は他の植物よりも炭素率が高い
結果
- イネ科の登熟・種付きが最も炭素率が高い→生のままでオーケー
- 種をつけていない若いイネ科や、その他の植物は大体生で20前後→枯れてから
つまりほぼほぼそこら辺の雑草を刈って枯らしたヤツで良いってこと?
そういうことだね
該当部分:Q&A1ー13「炭素率 C/N比?」
その2・腐敗と発酵
流れに逆らったものは腐敗する
皆さんは野菜は『腐る』モノ、というイメージをお持ちではないでしょうか。
しかしそこら辺に生えている雑草の類いは『枯れ』ます。
同じ葉緑素・細胞壁などを持つ植物なのに、なぜこうなるのか。考えてみると不思議ではないですか?
実はきちんと自然の流れに沿って育った野菜は腐りません。枯れます。
どういう原理なのかは、明確には分かっていませんが、とにかく現実にこうなるのです。
枯れるというのはイコール発酵すると同じことなので、自然の流れに沿うと発酵型になり、反自然では腐敗型になってしまうということになります。
腐敗するものが虫の餌
また多くの人の持っているイメージで、虫が食べる=美味しい野菜があると思います。
これが物凄い間違いで、そもそも、人間と虫は内臓の性質が全く違うんです。
人間は酸性、虫はアルカリ性なんですね。
そして本来、人間には発酵型の食べ物しか適していなくて、虫には腐敗型しか適していないそうなんです。
該当:Q&A1-10「人の食物と虫の餌?」
実際、発酵したものを虫に無理矢理食べさせると、内臓が破壊されて死ぬとのこと。
殺虫剤の代わりに良く発酵したモノが使われるのはそのため
虫の餌を人間が奪って食べている
つまりはええと、落ち着いて聞いてください。
農業って、お金を使って虫の食べ物を作り、お金を使って虫からそれらを守って一生懸命育て、そしてお金を払って虫の食べ物を買って食べている、となるわけですね。
なかなかの衝撃的な話
なぜそんなことが…
これは生態系のバランスではないかと思います。
植物は自然の中で様々な役目を持っているとされていますが、その中のある役目を負ったモノが腐敗型となり、別の役目を負ったモノが発酵型になる。
それを虫と動物で別々に消費している。
言い換えれば、腐敗型を掃除するのが虫の仕事で、発酵型を掃除するのが動物の役目、ってのが本来の自然の流れだと解釈するとスッキリしてしまいます。
だとしたら人間のやっていることはメチャクチャ。病気にもなるわけだ
信じる信じないはあなた次第
該当:Q&A2-13「虫・菌?」
…と、少し脅かしてしまいましたね。
実際本家サイトでこのようなことをいっているのですが、この記事でわざわざとりあげたのはとりあえず脅したいわけではなく、どうやら腐敗型に虫は群がってくるらしいということを一番に言いたかっただけなのでご安心を。
なにを?
その3・炭素循環畑の外見
炭素循環農法を実践すると、畑には雑草も虫も極端に少なくなり、それらを食べる動物もいなくなり、まるで慣行農業のような外見になるそうです。
実際筆者も2021年に1㎡の範囲に大量の竹チップを混ぜ込んでみましたが、春夏と周囲を雑草が覆う中、その部分だけはキノコは生えども雑草の類いは全く生えませんでした。
この辺本家サイトでも触れているのですが、要するに雑草や虫のやるべき仕事(耕すや過剰なモノを吸い上げる、腐敗するものを処理する等)が無くなるので、自然といなくなるのだそうです。
なぜ雑草や虫がいなくなるのに自然の流れが成立するんだろうという疑問がわきますが、通常よりも土中の微生物群の量が圧倒的に多いと生態系ピラミッドの中間部分が無くなってしまうのだそう。
それでも全体の生命の量でいえば差は無いので成立している、という現象が起きているのだそうです。
外見としては「不自然」だけど、決して「反自然」ではない
この違いが分かるかな
該当:実践-転換2-「農耕地では多様化も…」
その4・なぜ、流れに逆らうと腐敗するのか
このような農法を実際にやってみて腐らずに枯れる野菜を作ってみると、モヤモヤと疑念が湧いてきます。
生態系がなにかやってんな、と。
なにをしているのかは皆目見当もつきませんが、とにかくなにかをやっている。そして人間の農業ではそこがゴッソリ抜け落ちてしまっていて、だからどうしても腐敗型になってしまっている。
ここがまだ科学が追いついていない部分で、どうやら、人間にはまだ見つけられていない何かがあり、自然の流れの中では作用し、農業などの反自然の中では作用しないようなのです。
発酵型になるか腐敗型になるかは、その作用の有無が関わっていると。
本家サイトでは岡田茂吉やシュタイナー等の、自然農法の起源といえる人名が度々登場します。
岡田茂吉は自説の中でこの現象のことを「体」と「霊」と呼び、現実と非現実の二つの世界の作用で作物は育つとし、見事に自然農の宗教色を強めてしまったのですが、炭素循環でも「こちらの世界」と「あちらの世界」というような表現で度々説明がされます。
土の四相:固相・気相・『生相』・液相とかね
やはり見えない世界なんて言われると身構えてしまいがちになりますが、単純に、生態系がなにかをやっていて人間にはそれをまだ見つけられていない、判明できてないけど、確実になにか在って、どうやら自然の流れの中で育てれば良い結果になる、程度に捉えれば受け入れやすくなるのではないでしょうか。
わざわざ胡散臭くなんて誰もしたがらないんだけど、現象として起きてしまっていることを言葉で表現しなければいけなかった
現象で起きてしまっている以上はそうだと表現しなければなりません。
科学的でないから存在しないことにしていたらいつまで経っても本質に届きません。
自然に起こっていることがあくまでも主体であり、科学はそれを解明するための手段でしかなく、絶対ではないのです。
該当:実践2「3年経過(これが標準)」
終わりに
まだまだ触れたいことはたくさんありますが、そろそろまとめましょう。
あらためて、この農法が伝えていること自体はいたってシンプルで、ただただひたすらに自然の流れや、土の本来の力の活用法、だけなんです。
でもこれを難しくしているのは、あまりにも従来の農学と言っていることが違いすぎるため。
真逆と言ってもよいでしょう。
真面目に慣行・有機農業をやってきた人、自然農の思想自体に強いこだわりを持ちすぎてしまった人にとっては、相当難解な農法となるでしょう。
しかし、自然のコトワリを正しく学ぶことができれば、手間もコストもかけずに食物を作ることができます。
元々そこら中にある、エネルギーや資材や生命活動だけで、植物は育つのですから、家庭菜園をする上でこの炭素循環農法はとても参考になると思います。
この記事を読んで、なんとなく、ああそういう感じなのね、と、ザックリとイメージが掴めたなら、ぜひ本家サイトをじっくり読む、実際やってみる、考える、を繰り返してこの農法をモノにしちゃってください。
過去(教科書)からは学べない!未来(実践)だけが教えてくれる!
最後まで読んでくれてありがとう!
またね!
コメント